Ex-Libris
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【ネトゲ始末記】
アークロード
  • タイトル:ARCHLORD PART II
  • 運営:NHN Japan
  • 開発:NHN Games
  • サービス期間:2007/09/11-2012/09/10(執筆時点予定)
  • プレイ期間:オープンβから断続的に合計期間で5ヵ月程度

概要

リネージュIIを代表とする重厚長大型ゲーム。すなわち、フルスペック、リアル寄りグラフィック、砦戦やレイドを前提としたコミュニティ、生産等の周辺コンテンツ。
ショートカットパレットなどUIは一般的なものを想像すればいい。

大艦巨砲主義の後追いという、何とも危険なポジションを取ってしまったわけで、結果は多くの人が予想する通りの惨敗。
日本サービスに関しては、相当に接続数が落ち込んで復活の目がなくなってもタイトルに「PART II」が付いてイメージイラストを付けて継続するなど(※1)妙なしぶとさを見せていたが…。「PART II」などという最悪から数えた方が速いであろうタイトルセンスが通る空気自体が終わっていたのかもしれない。

なお、続編として「アークロード2」が開発されているとのこと。

(※1)
ハンゲームジャパンは「もう助からない」ゲームのサービス終了前に妙なテコ入れをする事がある。(ルナ・トゥィンクルやR2など)
埋没コストを無理に回収しようとするというよりは、おそらくはそこで「標的機」として訓練とデータ収集をやっているのではないかとも思うが真相は謎だ。

キックオフ

サービスから1年もせずに、おおよその所としては失敗として扱われるかそもそも忘れられるかといった感じだったのだが、実は当初の動きとしてはそれほど集まったユーザー数は悪い結果ではなかったはずだ。
各レベル帯でPTを組むのに困るようなこともないし、当時としてはそこそこ先進的であった(※1)競売所機能やドロップ量もあってアイテムは結構な量が流通していた。経済の回り方は問題なく健全だった。
バグに関しても進行不可能といったレベルのものは特に行き当たらなかった。

全ての職がソロ可能、範囲狩りが普通にできてゲームとして難しい点もない。PTを組めばアイテム拾いが自動化されるという重過ぎないメリットで逆に抵抗感をなくす。

基本無料でライト層向けという点で考えれば有望株としてプレゼンするに足る材料はあった。あったのだが。

(※1)
信じられない感覚かもしれないが、何せ2007年だ。意外とその時点では実装しているゲームは多くなく、当然の物として充実するのはもう少しだけ後。今ではその程度の機能もなければ逆に叩かれるくらいなのだが。
(※2)
この部分に自覚的であり、正しく作りこんだのが開発だったのだが…。後に何が重要器官か認識できない運営が無闇に切り刻んで問題を起こす。

おんぼろ煙突

先に言っておくと、運営が何一つ失敗しなくても成功は覚束なかったと思う。ただ、一気に状況を悪化させて再起不能にし、その後に生命維持装置に縛り付けるようなことになった原因は間違いなく運営にある。

このゲームにはヒーラーがいない。そしてソロ可能に調整されている。
かなり野心的な試みで、特定のクラスを待たねばならなかったり、負荷がクラスにより大きく違いすぎてPT結成が機能不全になるという問題への一つのアプローチでもあったのだろう。
そのため、回復は全てPOT(ポーション)で行い、POT使用タイミングをHPとMPのバー位置で指定するシステムになっている。スキル的にも範囲狩りが正常な形として想定されていたはずで、そういった諸々の前提としてこのシステムがあったはずだ。

だが、そんな重要な部分について運営がやった事は、正式サービスと同時に自動POT使用機能の日本サービスからの削除(※1)と、店売りの大型POT(※2)の削除・課金アイテム化だった。

確かにどこかで収益は必要であるし、十分な調整をした上でのシステム改変ならばいい。ダメージ量や攻撃ルーチンまで練れば「そういうもの」として遊び、別物としてバランスを認識したプレイスタイルになっていたかもしれない。
実際はそんな事はなく手動での連打が面倒なだけで、「運営が本来はゲーム内で手に入るべき必需品のPOTを奪い取った」「計算上高レベルになれば月額で5000円以上は絶対かかる」などの悪印象が付き、正式と同時にゲームを去るプレイヤーが続出した。

結局はその後、自動POT機能を戻して大型POTも店に並ぶようになったのだが…。そんな敗戦処理のようなアップデートの売り文句が「超攻撃的アップデート」なのは何の冗談だろう?
こういった後先を考えずに次々と煙突を作っては使い潰すような舵取り(※3)は結局最後まで続くことになる。

(※1)
削除というと表現が微妙であるかもしれない。正確には日本サービスはテスト時点で既に自動POT使用がなかった。
(※2)
「超大型回復ポーション」とかそんな名前だったと記憶している。
(※3)
運営だけではなく開発方針もそうで、実は種族は最初ヒューマンとオークしかいなかった。そこにネコミミ種族のムーンエルフが加わり、人間の子供のような擬態を取るドラゴンシオンが更に追加された。
追加その物が失敗とは言わないが、やはり大きく雰囲気を変えた感じで、当初方針がうまく行かなかったための泥縄という面も否定できないだろう。

金メッキ

コンテンツに関しては実は工数をそこそこかけたと思われる。ただし、あまり需要のない方向で。

クエストは全て大陸の異変というストーリーライン上に配置されて、大きな構図が徐々に姿を現すようになっているし、各NPCの性格と他NPCとの関わりが見えるようになっている。また、現実世界側の価値観に逃げずに世界設定に沿った内容(※1)である点も大きい。
実際、ムーンエルフの地域で「この遺跡と化した建物はどう見ても…?」と語られない設定を推測したりすることもできた。

しかし、クエスト内容で無駄に多種の収集アイテムを要求されたりと実プレイの自然な流れに乗せられず、徐々に無視されるようになって行く。
同様の理由で生産関連も無用にレシピが複雑化、本来ならば競売所に片っ端からドロップアイテムを登録して経済を回すはずが面倒さが先に立ってしまう。
クエストアイテムの種類数ともども、金メッキに金メッキを重ねるようなそれ以上意味のない作りこみを続けた格好となり、結局は終わってしまった。

他にも武器防具は全て別グラフィック(さすがに低レベル帯は色違い使い回しだ)が用意されている。種族とクラスごとに別の装備で、更にレアリティもあると考えればここは割と頑張っている所だろう。(※2)
さすがに作業量の関係から職業で種族と性別が固定化されてはいたが。

(※1)
殺伐として血生臭く、他種族への人権を同盟でもなければ認めない世界観を反映して、例えば亜人関連のクエストはかなり熾烈な話になっている。
・亜人との交渉で馬鹿にした態度を取られた、しかも同盟文書を置いておいたから勝手に持って行けと…取りに行ってくれ
・(取って来た文書では挑発的に交渉決裂を申し渡されていた)
・ここまで舐め切った態度を取られては示しが付かない、北であいつらの皮を10枚ほど剥いで来い
・良くやった、この皮を街の外に吊るしておけば奴らも自分の立場が分かるだろう

(※2)
同じくハンゲームの「ドラゴンネスト」も全レアリティの全武器グラフィックが用意されている(逆に防具は基本的にアバターアイテムでしかほぼ変わらない)。常としてカンストレベルまで行かないと単なる通過点として使い捨てられてしまうのは必然だが…。
装備の見た目移植システムは開発初期から設計する必要がある、労力の割に合わない、そもそもがそんな物が欲しいとう認識がないといった理由でなかなか実装されないのだろう。

妥協案委員会

「何が悪かったのか」という視点で言えばゲームその物にはそれほど多くの欠点は挙がらないのではないかと思う。
が、かと言って欠点のないゲームが良いゲームというわけではない。何せ遊ばなければプラスマイナスゼロなのだから。

砦の争奪戦に勝ち、絶対的な権力者であるアークロードとなり力を手に入れるという目的は明確で、コンテンツ量も数字としてはそれほど悪くない。もしも社内稟議を通しプレゼンを行うならば突っ込まれる場所も少ないものになっていたはずだ。
一方で、突出した売りに乏しく、マイナスがどこかに付けば一気に駄作となりうる。

初動失敗で人口が一気に減り、元々がドロップ量と人口で競売所にアイテムを流して経済を循環させるモデルであるだけに負のスパイラルは徐々に効いてくる。
BOTの放置がそれに拍車をかけ、ゴールドファーマーが競売所のアイテムを片っ端から買い占める。本来ありえないレアリティの物までがカンスト額で並ぶ状況は、終末感を与えるのに十分だった。

そうして人口が減ればコンテンツ消化をしてもらっては困るという立場から延命が始まる。
低レベル帯でしか手に入らないレアアイテムを取り逃すと後のリカバリが難しいため、レベルが上がりそうになると延々と自殺する。更にはそのレアアイテムがガチャに入る。
誰も責任を取らない事を条件にして行動するとこうなるのだろうけど、分かったことはリスクや損失を受け容れ、失敗を活かさなければ更に悪い状態になるということだった。
いくばくか最後に絞り取りはできたかもしれない。でも結局は人口を戻すこともゲーム内のコミュニティを活性化させることも叶わなかった。

総括、あるいは回避できたのか

もしも最善手を打てばヒット作となりえたか?
見せかけのアイテム数だけでなく、経済モデルを作り、王への道を魅力的に見せる仕組みがなければ成功しないだろうし、システム更改という「イベント」を要所に入れないとだめだろうから、やはり無理だったと思う。
しかし、まともな運営方針だったかと言えばそれも違う。いずれ死ぬとしても、その形や時期は行いで変わる。もう少しはましな結末にたどり着けたはずだ。
あるいはヘビープレイ型を選択した時点で大成功か惨敗かの二択だったのかもしれない。それでもこの惨状は最善手ではなかったことを示していると思う。

ちなみに、大規模ゴールドファーマーはある時期を境に撤退したか追放されたが、海外から接続している者やRMT業者は最後まで残っていた。過疎であれ、逆にライバルの少ない手堅い市場とみなす者はいるらしい。