フリーカルチャーをつくるためのガイドブック
概要
これまでの歴史に比べれば圧倒的に多くの人が情報を発信できる時代。
触れる情報も莫大なものになり、引用や複製も容易。そんな中で一作品においてこれまでとは比較にならない数の他作品の引用といった形もありうるようになった。そこで利用した他作品に対してどんな対価を払うべき(※1)か。自身の作品を気兼ねなく利用してもらい、新しい作品の中で生きさせる事を望む場合にどう表明するべきか。
簡単な「著作権」成立までの歴史から始まり、創作の土壌に他の作品が存在すること、過剰な権利主張によってそれが先細りしかねない中でどのように自身の作品が利用されて欲しい事を表明するか。
厳密な法についての話や、技術的な制限を介した私的利用制限などについてはほとんどなく、平易に、誰もが創作者になれる時代のために多くの人に読みやすく書かれている。
あくまでも自身の作品を利用してもらうためのものなので、権利主張の法的闘争ガイドではない。
(※1)
この点については多分にシステム構築的な問題でもあり、この本で目新しい提案があるわけではない。
白線の内側
視点が徹底して「どのように情報を『利用してもらいやすくするか』」に置かれていることによる問題もある。
CCライセンスは権利者が選択するもので、どのようなライセンスを選択するかは紛れもなく権利の行使だ。無条件に好き勝手にして欲しいならば権利放棄の方法だけで事足りる…そうでなければなぜ「権利者表示」などの条件項目があると?
この時、ライセンスには2つの視点が存在する。
一つは許諾。作品を利用する条件を明示して、利用者の不安をなくすこと。
一つは制限。作品を利用する際に、明示した条件を守らせること。
土台を持つ人間には当たり前すぎるが故に見落とされがちなのが、利用条件が守られるというのはまだ期待に過ぎないということだ。
契約は履行されるまで何が起こるか分からないわけだけど、それではなぜぼくたちはオークションで個人から5年前の雑誌のバックナンバーセットを買う(いや、Amazonからの買い物でも何でもいいのだが)際に大した不安を感じないのだろうか。
長年の商慣習?犯罪への罰則の存在?それとも不正を行えないシステムがある?
ともかく「守るべき物」という同意が社会になければ意味はないだろう。いくら取り締まりを唱えても全く海賊版が減らない国が実際にあるように。
この点に関しては、制限、つまり提示した条件が守られる事に関しては、それは守られるであろうという前提が暗黙に置かれているのみ。
「CCにより何かが保証される」という勘違いは今後創作者の幅が広がるにつれて間違いなく起こるだろうと思うんだけど、性善説をただ前提にしてしまって良かったんだろうか?
ウィキペディア等の例をあれだけの数挙げる紙幅があるならば、正に新たな情報の発信者となった一般人に、CCに限らずライセンスや著作権がどれだけ認識されているか(その割合がどう変わって行ったか)の調査結果を載せるべきじゃないだろうか。
ブラックリスト、ホワイトリスト
あまり愉快な話ではないのだけれど、権利者が権利を行使するかどうかの話である場合に「権利者が黒と言わない限りは白」という態度を最近見かけるし、これがしきい値を超えるとワイン樽にスプーン1杯の汚水で樽いっぱいの汚水が出来上がったかのごとく、あとはもう全却下しか道がなくなると思う。
正直なところ、フェアユースの概念が一向に根付かない日本の現状からしてCC普及は懐疑的だし、著作物で食べている人から見ればその疑念は更に強いんじゃないだろうか。そこに風穴を開けるべくPDFをCCライセンスで配布できるようにしているんだろうけど、さて。
全体として
創作活動の実態に合わない現状について、ひとまず「どのように断層に板を渡すか」という点ではまとまっている。
ただ、一つの作品の祖先の一部として受け継がれた場合に受け取るべき敬意、報酬は何か、それが実行される仕組みと意識という点ではまだ議論の余地がある。(CC自体が過渡期のものである、という著者の考えも書かれている)
また、リスペクトや先人への敬意といった方向を示しているが、そういった意識を持たずにシステムとして堅く成立し得るのか、もっと言うならば創作者の内面に善意が存在してそれに従って行動しなければ成立しないのか、という点はこれから考えるべき点だと思う。
(もしかしたら堅く成立し得る仕組みを「作ってはいけない」か「原理的に作れない」可能性もある)
補足
もう少し、実践的で経済の仕組みと関係した話をしたければクリス・アンダーソンの「フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略」がおすすめ。実際に駆動しないシステムは単なる絵空事なので、やはり経済的に成立可能な仕組みとは何かの視点も必要ではないかと思うので。
しかし、帯の推薦を書いているのが、元ネットランナーのライターで、ふたばで徹底的に嫌われている津田大介氏というのはどう考えるべきなんだろうなあ…。