Ex-Libris
  • タイトル:ミストボーン―霧の落とし子〈1〉灰色の帝国
  • 著者:ブランドン サンダースン (著), Brandon Sanderson (原著), 金子 司 (翻訳)
  • 出版社:早川書房
  • 形態・レーベル:ハヤカワ文庫FT
  • 価格:¥861+税
  • 発売日:2009/5/5

読了。

傑作である。色が合うならば迷わず買って何らの問題もない。

陰鬱な降灰が続く灰色の都市。夜になれば霧が全てを覆い隠し、揺るがぬ不死の千年王の抑圧が続く。
そんなある日、下層民の盗賊である主人公の少女は、反逆を企てる謎の男に見い出され…。

王道の始まり方をし、金属を体内で燃焼することで燃やした金属に対応した力を得る異能力など、つかみは十分。そういった物を期待してとりあえず第一部だけ読んでも良いだろう。

だがその真価は、徹底して終わりから作り上げられた極めて緻密な設定の開示と、各キャラクターが自身の生き方を決定して世界を変えていく第二部以降。
途中で退場する者が、最後まで完走した者が、死してなお物語を走らせた者がいる。群像劇と言うには使い捨てられた名前は少なめだが、間違いなく個々のキャラクターによって編み上げられた話だ。
また、「設定厨」としての重心が世界設定側にあるならば文句なくおすすめできる。

以後、直接的なネタバレは避けるが(あまりにももったいないのだ)、察しの良い人はいくばくかの真相に辿り着いてしまうだろう。

(さらに…)

  • タイトル:最初の人間
  • 著者:カミュ (著), Albert Camus (原著), 大久保 敏彦 (翻訳)
  • 出版社:新潮社
  • 形態・レーベル:新潮文庫
  • 価格:¥662+税
  • 発売日:2012/10/29

読了。

「教科書で見たことのある名前だから」という敬遠は無意味だ。ノーベル文学賞受賞作家にして、天才と呼ばれた著者の未完の遺作だが、逆に未完であることが何らかの影響をおよぼしたか、物語に無理に抵抗しなければ良き時間を与えてくれる。
少年(あるいは少女)時代を幸福な瞬間のあった思い出とできる程度の年齢ならば、何がしか感じるものがあるだろう。

(さらに…)

  • タイトル:フェアリィフィールド 妖精戦陣
  • 著者:榊一郎 (著), BLADE (イラスト)
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 形態・レーベル:朝日ノベルズ
  • 価格:¥940+税
  • 発売日:2012/11/20

読了。

元がゲーム用の企画だったそうで、部隊名から現在の環境に至る原因まで、伏線になりうるものが結構な数。
話の流れはあらすじから想像できる通りで、奇をてらうこともなく進行。正直に言って、設定と表紙と挿絵の軍拡競争の真っ只中、あまりにも優等生すぎるほど。
イラストともども、ベテランらしい危なげのない仕事で起承転結もきちんと取れている。
基本は挿絵が気に入った、設定が気に入った、それで問題ない。

以下、ネタバレあり。

(さらに…)

  • タイトル:ヘヴィーオブジェクト 死の祭典
  • 著者:鎌池 和馬 (著), 凪良 (イラスト)
  • 出版社:アスキーメディアワークス
  • 形態・レーベル:電撃文庫
  • 価格:¥578
  • 発売日:2011/11/10

「とある魔術の禁書目録外伝」の作者が贈る、近未来アクション。シリーズ5作目、ストーリーとしては外伝1作目。
ストーリーとしてはオーソドックスなB級アクションにライトノベルのキャラクターを入れ込んだ形。細かい設定は今回はあまり関係なく、タイトルにもなっているヘヴィーオブジェクトも名前くらいしか出てこない。

舞台は既刊シリーズと同じ近未来。ショービジネスとして再定義されドーピングもデバイス使用も有りになった「オリンピック」に、泥沼の戦場からやってきた空軍エースパイロットの少女。
順調妥当に勝ち上がるも、その陰にはある目的からテロを画策する勢力が…。

既刊シリーズでは少なからずパターン化し始めた話の流れに対して、1巻丸ごと使っての開き直ったB級アクション。まあ、兵器やら物理法則で何かが違和感を訴えるかもしれないがそれは横にどけておけばいい。
主人公があまりにも優等生かつ万能過ぎる(そして、そもそもこの舞台に立った理由がやや薄い)気がしなくもないが、この話で自分を探したり使命に目覚めたりされても無用であるし鬱陶しいだけだろう。滅び行く最後の騎兵的なポジションでもあるし、キャラも立っているのでせっかくならば本編に出してもいいと思うのだが。

シリーズ未読でも「戦局を単騎で決める超兵器『ヘヴィーオブジェクト』がある」「かつての『国家』枠は解体され、イデオロギーにより色分けされた世界」だけ覚えておけば問題ない。ただし、そういった点に不自然さや納得を求めるならば本編側はおすすめしない。