Ex-Libris
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フェアリィフィールド 妖精戦陣
  • タイトル:フェアリィフィールド 妖精戦陣
  • 著者:榊一郎 (著), BLADE (イラスト)
  • 出版社:朝日新聞出版
  • 形態・レーベル:朝日ノベルズ
  • 価格:¥940+税
  • 発売日:2012/11/20

読了。

元がゲーム用の企画だったそうで、部隊名から現在の環境に至る原因まで、伏線になりうるものが結構な数。
話の流れはあらすじから想像できる通りで、奇をてらうこともなく進行。正直に言って、設定と表紙と挿絵の軍拡競争の真っ只中、あまりにも優等生すぎるほど。
イラストともども、ベテランらしい危なげのない仕事で起承転結もきちんと取れている。
基本は挿絵が気に入った、設定が気に入った、それで問題ない。

以下、ネタバレあり。

平常進行

出会い、契約、初陣、敗北、修行、再戦、状況の終了。
再戦部分がテロ対応ではあるものの、極めて真っ当な話の流れ。それ故に、日常パートと非日常(戦闘)パートとのバランスが崩れ、人物の動機や心情変化に無理が生じるというよくある欠点もきっちりと持ち合わせてしまったのが困ったところか。

特に、競技ルール関連とフェアリィの競技外での運用範囲と普及度、その他の社会状況はほとんど切り落としている。それはそれでいいのだけど、熱狂的な掴みを取れるキャラクターの個性、震える程のバトル描写、丁寧で五感を引き出す状況描写があるのか、というとそうでもない。
あまりはっきり言ってしまうのもはばかられるのだけれど、あらすじとイラストで何となく世界観を伝え(これができる時点で十分すごいのだが)、そのまま安全に着地しました、という感が強い。

「本物」を駆動させるもの

入れ込まねばならない物に追われた感じが強く、主人公の動機周りが薄味になってしまっているのが残念なところ。
実際のところ、現状にどの程度の不満があるのかや無気力さを象徴する場面はあまりない。流して読んでいれば転校生であるということも忘れてしまう。というよりも、削ってしまっていい設定が散見される。どこが皆殺しの狂犬やねん。ミムルの義眼設定をおざなりに出しすぎや。

日常パートとのバランスに話が再度戻ると、結局は各キャラクターの動機と衝突がちゃんと出てこないという点に尽きる。テロ対応がそこだという話もあるのだけど、さすがに遅い。
いっそ、フェアリィ・コンバットとフェアリィ自体はもっと普及している設定(※1)にして、華やかな競技会と影を落とすテロや犯罪という構図にしてしまった方が良かった気がする。余計なお世話だろうが、今後展開させようとすれば、更にクライマックスの持って行き方はバランスが取れなくなるんじゃないだろうか。
現状だと、作者の愛情が見えるだけで、その世界に入ってみたい、見てみたいといった感覚に乏しいのだ。

フェアリィでサバゲー、という点は確かに魅力なのだけど、じゃあ小説として濃度が高くて世界が目の前に息づいたりするか。あるいは設定が想像力を刺激して「俺フェアリィ」を出したくなるか。実のところ、そこが中途半端だと思う。

(※1)
もう少し言うと、現実でのアーケードゲームやTCGへの必要金額を考えると、趣味への経費と競技人口は危ういバランスの上にあるので扱いを誤るとリアリティをなくす。
たったの10年程度で定石の差し合いになったって設定は、主人公の素人ならではの発想の前ふりとはいえ、害悪としか思えないけどなあ。
ところで、30万円(仮)で「実銃が買える」って即答できるってそれなりに変わり者だと思うのだが。銃所持が認められて普及しているならもっと安い(そんな世界で、例えばハンドガンで30万と言えばバリバリのカスタムだ)だろうしね。

総評

いくつかのライトノベルのひとつとして普通に読む分には問題ない。
が、忙しい中でなるべく尖った良い物を読みたい、あるいはきっちりと練りに練られた物をぜいたくに読みたい、そういった場合には注意が必要。企画転用もあってか、バリが出て薄味、という食い合わせの悪さがある。
心配ないクォリティで軽く読めるものを期待するならばそれは満たされる。
逆に、何か新しい土台となる物の誕生に立ち会いたい、というならば厳しいと思う。設定なりが背景に積まれているのは確かなので、逆に続刊で判断するくらいでも良いかもしれない。

おぼえがき:巻数番号なし

転用の際の物だとおもうが、やはり粗さが出る場所がいくばくか。
続刊期待の伏線やワールド展開という点もあるだろうが、それを察して目をつぶるのは断る。

コトコと「憧れのあの人」のフェアリィ達は全く面識がないのか?
その割には「私が見た当時と変わっていなかった」であるが…。「何が」変わっていなかったのかをあわせて考えると更に分からなくなる。

死の気配が強すぎる。
久我家関係者2人が闘病生活の末、育ての両親2人が交通事故で同時に。とりかえ子をやるために最低で3人殺さなければいけないのは分かるが、詰め方のせいで軽くなってしまっている。

街中でのフェアリィの運用ルールがあいまい。
元兵器でスペック的に十分人が殺せるレベルが自由にマスター候補の監視に動き回っていいのか?ロボット三原則は「ロボットが正しく状況を理解できる」ことが前提(※1)である。

ラグドール(※2)に乗っていいのか?
フェアリィの体重が数kg、いくら大型種の部類とはいえ10kgを超えるものは少ない種であるので、悲劇が起こらなければいいのだが。
まあ、これはビジュアル的な面白さとして流すべきかもしれない。

(※1)
人に似た存在の心と倫理、そしてルールを課して関係を作るテーマは、ハヤカワ文庫JAのスワロウテイルシリーズが最近では面白い。萌えの衣装をまとっているが、内容は割とハードである。もっとも、フェアリィフィールドではルールの扱いが主題ではないので単純に比べることはできないが。

(※2)
ちなみに、FPSなどで使われるオブジェクトの物理衝突演算にも「ラグドール物理演算」がある。

おぼえがき:これは???ですか

確信が持てないが…受け手の層によってはフェアリィの大きさが逆に障壁になるかもしれない。リアルワールドにフェアリィを置いた場合、50~65cmのサイズは感覚の「谷」に落ちる可能性がある。
武装神姫がなぜ1/12なのかではなく、なぜ武装神姫はドールサイズを選ばなかったのか(ああうん、フィギュアとの絡みとかは理解してるよ)を考えさせられた。
ただ、確信が持てないと言った通り、一般的には問題ないのかもしれないし、描写がいくつかあればあっさり越えられるのかもしれない。
それに、元が兵器であるし、小さくしすぎると正に巨大デリンジャーでティロ・フィナーレに…これはこれでおいしいな…。

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